ずいぶん前のことになりますが、
「プロフェッショナル仕事の流儀」で現VERY編集長の今尾朝子さんの特集を見ました。
印象的だったのは「定時退社」していること。当時、夜中まで働くのが当たり前だった出版業界で、働くママである今尾さんは、定時で切り上げることを選ばれたんですね。
今でも忘れられないシーンがあります。
定時退社される今尾さん。光文社がある護国寺駅を駆け下りておうちに帰っていこうとしたところ…話が終わってない部下が、護国寺の今尾さんを追っかけてくるんです!今尾さんは、レスポンスをして駅の雑踏へと消えていくのですが―そのとき私が思ったことはこうです。
「あ、部下は遅くまで働くんだ」
今尾さんが苦渋の選択(?)で定時を選ばれているのは理解しているのですが、編集長という仕事は、雑誌を完成させるだけではなくマネジメントのトップでもあります。(光文社はそこの管理を切り分けられているのかもしれませんが…)定時で帰る選択肢があるなら、チーム全体がそうできるワークスタイルに変えていくべきでは?だってそれをできるのはチームリーダーである今尾さんしかいないわけだし…。と、とてもモヤモヤしたことを覚えています。
そう思ったのがかれこれ5年前。
つい最近、また「定時で帰る編集長」が現れました。
それがWWDの村上要さんです。
この動画はとても面白いのでみんなに見てもらいたいのですが…。
【1日密着】定時退社する理由から意外な経歴まで “誰よりもファッションを楽しむ”村上編集長
村上さんは定時に帰って、そのあとボランティア活動に従事されているそうです。
定時に帰ろうと思ったきっかけは、sacaiの阿部さん、ステラマッカートニー、フィービーファイロなどママさんデザイナーが活躍する理由を聞いたから。彼女たちは母であり妻であり仕事人だから、世の中の女性に共感される服をつくれるのだと。
そこで、「自分も仕事人だけじゃない、いろんな顔を持とう!」と思って定時退社を決心されました。
その動画でもうひとつ印象的だったのは村上さんの「なんでもいい」という言葉です。どういうことかというと「自分は(部下に対して)こう書けよ、とは思ってない。とにかくあなたらしく書けよ、と伝えている」それゆえの「なんでもいい」だと。
あ、そこが今尾さんと違うところだ。と思いました。(プロフェッショナルは番組の演出上そうしてる可能性があり、現実は違うかもしれませんが、)明らかに今尾さんは「カリスマ編集長」でした。周りと比べて明らかに優秀でしたし、視座の高さも全然違う。それだけに周りは完全に、今尾さんに「お伺いを立てている」状態でした。
一方で村上さんは大変今っぽいというか、それぞれのやり方でクオリティあげてけばいいじゃん、ってスタイルです。
どちらがいい、という話ではありません。例えばエヴァンゲリオンの庵野さんもゴリゴリのカリスマで、スタッフに一応やらせてはみるんだけど結局は全部自分でやっちゃう(笑)、でも周りも「庵野さんだししょうがねえな」、庵野さんの才能を信じてるし庵野さん大好きだから全力でついていく。その結果、すばらしい作品が世に生まれている。雑誌と映画で媒体は違うものの、「世の中に良いものを送り出す」という点では一緒だし、創作の業界ではこういったカリスマ的スタイルのほうが今でも根強いだろうと想像します。
ただ、庵野さんは定時では絶対に帰らないんですよね…笑
カリスマ性(その人がいないと回らないこと)と定時退社の相性の悪さ…。
そこのジレンマはカリスマ型の人ほど強い。
だからこそ、村上さんの「定時退社」×「あなたらしく書けばいい」がしっくり来たんだと思います。
繰り返しますが、今尾さんにしろ村上さんにしろ私が見たのは演出の入っている動画なので現実のお二人がどうなのかは知りません。また今尾さんがプロフェッショナルにでたのは5年前であり、現状は変化してる可能性があります。それでも、2021年に、村上さんという新しい「定時退社の編集長」が存在した。その事実が、私にとっては希望となるニュースだった。それだけは真実です。